top of page
きのすい物語 ― 汚れた水の記憶 ―

昔むかし、まだ「きのすい」と呼ばれる前のこの森には、音も言葉も透きとおるような水が流れていた。
小さなきのこたちは胞子のうたをうたい、水はその歌に合わせて光っていた。

けれど、あるとき——

「分け合う余裕のない魂たち」が、森の外からやってきた。
彼らは「水」を欲しがったけれど、
それが誰かの涙から生まれたものだとは気づかなかった。

彼らは争いを運び、
嫉妬と虚栄心をつれてきて、
「きれいに見せたい水」と「見たくないものを沈める水」を分けようとした。

すると、
水の底に沈んだのは、言葉にならなかった痛みや、うまく笑えなかった日々の欠片たち。
その重さに水は濁り、
きのこの胞子も、歌うことをやめてしまった。

それでも。

森は、静かに、静かに、待っていた。
ほんとうの声が、
「ありがとう」や「だいじょうぶ」という言葉と共に、
再び土の中へ届く日を。

そして今、
ちゃあが歩きはじめたことで、
「きのすい」の名を思い出し、
もう一度、水を浄化する物語が動き出したのだった。

「争いも、嫉妬も、虚栄も、悲しみの裏返しだった。
ならば、悲しみを抱きしめる森に、水は戻ってくる。」

image7.jpg

© KINOSUI Corp.

bottom of page